「家族信託はどこに依頼するの? 注意点は?」
認知症対策として家族信託を利用するかお悩みですね。
認知症になると不動産が売却できなくなり、子供に迷惑がかかる…。
今のうちに家族信託を利用したいけど、注意点は無いの?
そんなあなたのために、家族信託について分かりやすく解説します。
家族信託なら、認知症になった後も資産を家族で管理できて、相続対策も進められます。
一方で、家族信託には6つの注意点も。
この記事では、家族信託の仕組みや注意点、始める方法について、分かりやすく解説します。
家族信託であなたのご家族の豊かな生活を守るために、この記事がお役にたてば幸いです。
この記事のもくじ
家族信託は認知症時代の新しい相続対策
家族信託とは、平成18年(2006年)の信託法改正で利用できるようになった、新しい信託制度。
特に認知症に備える相続対策として、効果的な方法です。
遺言以上に幅広い機能もある
家族信託には「遺言」以上に幅広い機能があります。
本人が死亡した後に財産を継承する人を契約書の中で指定できるうえ、さらにその後の相続(2次相続以降)についても継承者の指定が可能。
そのため、亡くなった後も相続争いを避けることができるのです。
家族が自由に財産を活用できて、相続人の指定までできる制度なんだね
それだけじゃないんだ。
遺言書では最初の相続人までしか指定できないけれど、家族信託ならその後の相続についても指定できる。
その点では、遺言書よりも「一歩進んだ」相続対策とも言えるね
家族信託の仕組み
家族信託とは、保有する財産を信頼できる家族に託し、管理や処分を任せるしくみです。
具体的には、「委託者(いたくしゃ)」「受託者(じゅたくしゃ)」「受益者(じゅえきしゃ)」という3つの役割が存在します。
- 委託者・・・財産を有する人。財産を受託者に引き渡して信託を設定する。信託財産の管理や処分の指示もする。
- 受託者・・・委託者から財産を引き受ける人。信託の目的に従い、信託財産を管理・処分する。
- 受益者・・・信託財産を管理・処分することで得られる利益を受ける人。
他に、委託者に代わって受託者に財産の管理・処分の指示をする「指図人」を置くこともあります。
家族で財産を守る場合の家族信託
家族信託でよくあるのは、受託者を子供に設定し、委託者と受益者を本人に設定するケース。
本人が亡くなった後は、委託者と受益者を奥さんに引き継げます。
さらに奥さんが亡くなった後まで、相続先を設定可能。
家族信託を利用すれば、亡くなる前から、家族による家族のための財産管理が計画できるのです。
信託契約の形式は自由
家族信託を利用するためには、まず信託契約を結びます。
ただ信託契約といっても、法律上はパソコンで作成・印刷した紙(内容を記載したもの)に、委託者と受託者が署名・捺印すればOK。
これだけで契約が成立します。
きちんと紙に書き出して、署名・捺印しておけば良いんだね
本来は口約束でもOKとされているけれど、それだと後からトラブルになることもあるからね
登記は必要
ただし、不動産の名義を委託者から受託者へ変更するため、登記などは必要。
登記は司法書士に依頼します。
確実性を高めるなら公正証書にする
信託契約書の確実性を高めたい場合は、公正証書で作成するか公証役場で宣誓認証する方法もあります。
信託契約書を公正証書にする場合は、1通あたり700円の費用がかかります。
一方の宣誓認証とは、公証人の面前で「この文書(今回は自分たちで作成した信託契約書)に書かれている内容が事実である」と宣誓した上で、信託契約書に署名押印し、公証人が認証するもの。
これによって文書の証拠価値を高めることができます。
ほとんどの税金の特例は、家族信託でも適用できる
家族信託でも、普通の相続や売買と同じ様に、節税するため税の特例が利用できます。
主な税の特例
- 1. 居住用不動産の夫婦間贈与
- 婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例。
【参考】国税庁・No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除 - 2. 小規模宅地の特例(特定居住用宅地等)
- 故人の配偶者や同居していた親族などが、居住用の宅地を相続すると、330m2までは土地の評価額が8割減額(他に事業用宅地の減額もあり)
【参考】国税庁・No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例) - 3. 相続時精算課税
- 一定の年齢以上の親から子や孫への生前贈与について、相続時の相続税で精算できる制度
【参考】国税庁・相続時精算課税 - 4. 3,000万円の特例
- 自宅を売却した場合に、譲渡所得から3,000万円までは非課税になる制度
【参考】国税庁・No.3302 マイホームを売ったときの特例
※詳細は必ず税理士や税務当局へ確認して下さい。
相続で故人の家を売るのはとても難しい作業。気をつけるべき注意点を、税制改正の詳細と合わせて解説します。
家族信託の4つのメリット
家族信託のメリットはこちら。
- 認知症になっても家庭裁判所の許可なしで、家族が自由に財産を管理できる。
- 死亡時も口座が凍結されず、円滑に資産が運用できる。
- 信託銀行などの専門機関なしで、家族で信託を設定できる。
- 相続後の2次相続も設定できる。
家族信託はメリットが多くて良さそうだね。
でも家族信託には注意点もあるから、きちんと知ってから判断しよう。
家族信託の6つの注意点
家族信託の注意点はこちら
それぞれ解説します。
注意点1. 節税効果はない
家族信託には、特別な節税効果はありません。
普通の相続と同じなので、節税を考える場合は、家族信託とは別に税理士などへ相談しましょう。
家族信託だと、税金で損するってこと?
そうじゃなくて、家族信託でも普通の相続と同じってことだよ。
普通の相続で利用できる税の特例は、家族信託でもほとんどが利用できますので、特別に家族信託で損するわけではありません。
詳しくは税理士や税務当局へ確認して下さい。
税理士の心当たりがなければ、こちらのような税理士紹介サービスもあります。
⇒税理士ドットコム
注意点2. 受託者の選定や管理能力不足でモメる恐れがある
家庭裁判所が決める成年後見人と違い、家族信託では受託者を自由に決められます。
委託者から財産を引き受ける人。
信託の目的に従い、信託財産を管理・処分する。
そのため、受託者を決める時に家族内でモメる恐れがあります。
また、受託者はスムーズに選定できても、適切に管理できなければ後でトラブルになる恐れも。
家族信託では、家族の中に受託者としてふさわしい人(財産を適切に管理でき、信頼できる人)がいるかがポイントになります。
注意点3. 信託収入と他の収入との損益通算ができない
通常、収益物件で赤字が出てしまった場合は、給与収入など他の所得と損益通算することができます。
さらに、損益通算しきれなかった損失については、翌年以降に繰り越すこともできます。
しかし、収益物件を信託財産に入れてしまうと他の収入との損益通算ができなくなり、損失の翌年への繰り越しも不可に。
収益物件がある場合は、家族信託によって税金で不利益となることもあるため、十分に検討することが必要です。
【参考】国税庁・No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
注意点4. 登記や口座開設手続きなど手間や費用がかかる
2007年から始まった家族信託は、最先端の相続対策で、実は様々な方面の法的知識が必要な難しいもの。
そのため、トラブルを避けるために、専門家へコンサルティングを依頼した方が安全です。
専門家への報酬は、遺言書の作成や成年後見の業務に比べると高めになりますが、その分メリットも大きいので価値はあるでしょう。
結局、専門家へ支払う費用が必要なんだね
多方面の専門知識が必要だから、ある程度の費用は仕方ないかな
また、信託財産に不動産がある場合は、不動産の名義が委託者から受託者へ変更されます。
そのため、所有権移転登記のための費用(登録免許税)が必要です。
なお、通常の売買や贈与による所有権移転登記では「固定資産税評価額×2%」の登録免許税が必要ですが、信託の場合は「固定資産税評価額×0.4%」になります。
注意点5. 信託期間中は受託者・受益者を拘束してしまう
家族信託では、2次相続以降の財産承継者まで委託者が決められるようになっています。
これは家族関係が複雑な場合に相続争いを避けられたり、先々の代まで財産を継承したい場合に有効な機能と言えるでしょう。
その一方で、信託契約が続く限り、受託者や受益者を拘束するのも事実。
「長期にわたって資産の処分を制限している」と捉えられてしまい、それが元でトラブルに発展する可能性もあるのです。
「子や孫のために」と思ってやったことが、トラブルの原因になるのは悲しいこと。
そうならないためにも、しっかりとした設計が必要になるのです。
注意点6. 自称専門家の詐欺にあう恐れも
家族信託を専門家に依頼するときに、法外に高額な報酬をとられたり、間違った手続きで機能しない家族信託にされる恐れがあります。
実際に東京地裁令和3年9月17日の判決で、専門職が間違えて損害賠償が認められています。
【参考】消費者相談センター・高齢者の財産を適正に管理し承継するための選択肢
なぜなら家族信託には、豊富な法律の知識と経験が必要だから、
家族信託は比較的新しい制度なので、専門家であれば誰でもOKではなく、実務経験も踏まえて、家族信託に詳しい司法書士や弁護士、税理士に相談しましょう。
他の専門家のセカンドオピニオンを受けたほうが良い
専門家に相談するときは、複数の専門家に話を聞いて、できればセカンドオピニオンも受けましょう・
弁護士の心当たりがなければ、例えばこちらのようなサービスもあります。
⇒相続サポート
最近は銀行も家族信託の相談を受け付けています。
家族信託なしで認知症になると『成年後見制度』
家族信託を利用せずに認知症になってしまうと、本人が亡くなるまでの間、「成年後見制度」を利用することに。
成年後見制度では認知症になってしまった本人に代わり、後見人が財産の管理や法律行為を行います。
成年後見人制度では次のデメリットがあります。
- 後見人は裁判所が選び、親族以外の第3者になる恐れがある。
- 第3者が後見人や監督人になると、毎月2万円〜の報酬を支払うことに。
- 所有する不動産の売却には、裁判所の許可が必要で、認められないケースも多い。
- 無くなった後の遺産配分は遺言が必要で、2次相続では効力なし
成年後見制度は、認知症になってしまった本人の財産を保護する制度。
しかし、保護が目的であるため、親族には自由度が低いという問題点があるのです。
成年後見人制度については、こちらで詳しく解説しています。
認知症になった親の家でも、親が同意していれば子供が売れる場合もあります。認知症の親の家を売る3つの注意点、成年後見制度の4つの注意点などをまとめました。
裁判所への申請などは、こちらの裁判所の解説が分かりやすいでしょう。
【参考】裁判所・後見ポータルサイト
まとめ
家族信託は、上手に利用すれば、認知症対策や相続対策として有効です。
一方で6つの注意点があります。
- 家族信託自体に節税効果はない
- 受託者の選定や管理能力不足でモメる恐れがある
- 信託収入と他の収入との損益通算ができない
- 登記や口座開設手続きなど手間や費用がかかる
- 信託期間中は受託者・受益者を拘束してしまう
- 自称専門家の詐欺にあう恐れも
家族信託を含めて、あなたやご家族に最適な選択肢が見つかることをお祈りしております!
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