家族信託イメージ
認知症患者は年々増加しており、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると推計されています。

そうした中で、新たな相続対策として注目されているのが家族信託(民事信託)。

従来の成年後見制度では難しかった「柔軟な財産管理」ができるため、認知症への備えとして始める人が増えています。

認知症になる前に用意しておきたい家族信託について、仕組みや注意点、始める方法について、分かりやすく解説します。

家族信託は認知症時代の新しい選択肢

家族信託とは、平成19年(2007年)から利用できるようになった、新しい相続対策。

特に認知症に備えるために、効果的な方法です。

【参考】国税庁・平成19年度信託税制の改正のあらまし

従来は、認知症になってしまうと「成年後見制度」を利用するしか方法がありませんでした。

成年後見制度は認知症になってしまった本人に代わって、財産の管理や法律行為を行うもの。

「本人(被後見人)の財産を減らさないこと(保護)」が目的なので、たとえ税金対策や介護施設への入居費用のためであっても、家庭裁判所が許可しなければ不動産の売却などもできませんでした。

これが、家族信託であれば家庭裁判所の許可は不要。

親族が自由に財産を活用できるのです。

また、家族信託には「遺言」と同じような機能もあります。

本人が死亡した後に財産を継承する人を契約書の中で指定できるうえ、さらにその後の相続(2次相続以降)についても継承者の指定が可能。

そのため、亡くなった後も相続争いを避けることができるのです。

ハウスくんハウスくん

家族が自由に財産を活用できて、相続人の指定までできる制度なんだね

家博士家博士

そう。
それに、遺言書では最初の相続人までしか指定できないけれど、家族信託ならその後の相続についても指定できる。
その点では、遺言書よりも「一歩進んだ」相続対策とも言えるね

家族信託なしで認知症になったらどうなる?

認知症になると正常な判断ができなくなります。

そのため、家族信託なしの場合は、財産などを適切に管理するために本人に変わって後見人が判断する「成年後見制度」を利用することになるのです。

本人に変わって判断する立場の成年後見人には、必ずしも親族がなるわけではありません。

実際、成年後見人の7割が司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門家。

成年後見人は家庭裁判所が選ぶため(法定後見)は、家族ではなく専門家が選ばれることが多いのです。

認知症になる前に、本人自らが後見人を指定することもできますが(任意後見)、この場合には後見人を監督する専門家が付きます。

ハウスくんハウスくん

任意後見人であっても、結局は専門家が監督人としてつくことになるんだね

家博士家博士

そう。
それに専門家はタダでやってくれるわけではないから、報酬を支払うことになるんだ

専門家に支払う報酬の目安は?

法定後見の場合、専門家へ支払う報酬の目安は管理する財産の額によって変わります。

法定後見人への報酬目安

  • 管理財産額1,000万円以下・・・月額2万円
  • 管理財産額1,000万円〜5,000万円・・・月額3〜4万円
  • 管理財産額5,000万円以上・・・月額5〜6万円

一方、任意後見人につく監督人に対する報酬は、これの半額程度です。

家の売却には家庭裁判所の許可が必要

被後見人が所有する家を売却する際には、家庭裁判所の許可を得る必要があります。

「本人に代わって財産の管理を行う」のだから、委任状さえあれば良いのでは? と思うかもしれませんが、これはNG。

本人になりすました委任状だけの代理では、司法書士が認めてくれないのです。

それ以前に、実は多くの場合は家庭裁判所からの許可が出ません。

家庭裁判所が売却を認めるかどうかは、本人にとって「最善の選択肢かどうか」がポイント。

家庭裁判所の判断材料としては、次のようなものが挙げられます。

  • 売却の必要性
  • 本人の生活状況や意向確認
  • 売却条件
  • 売却後の代金の管理
ハウスくんハウスくん

売却条件なども判断材料になるんだね。ということは、本人にとって利益が少ないようだと認められないってこと?

家博士家博士

そう。だから、相場よりも安くなってしまう不動産会社による買取などは認められないんだ

不動産会社による買取では、売却価格が相場の6〜8割に安くなってしまうため、裁判所に認めてもらえません。

買取については、こちらで解説しています。

成年後見制度は、認知症になってしまった場合に本人の財産を保護するための大切な制度。

しかし、保護が目的であるために、自由度が低いという問題点もあるのです。

成年後見人制度については、こちらで詳しく解説しています。

家族信託のしくみとは

家族信託とは、言ってみれば「家族による家族のための財産管理」

資産を持つ人が特定の目的のために、保有する財産を信頼できる家族に託し、管理や処分を任せるしくみです。

家族信託では「委託者」「受託者」「受益者」という3つの役割が存在します。

  • 委託者・・・財産を有する人。財産を受託者に引き渡して信託を設定する。信託財産の管理や処分の指示もする。
  • 受託者・・・委託者から財産を引き受ける人。信託の目的に従い、信託財産を管理・処分する。
  • 受益者・・・信託財産を管理・処分することで得られる利益を受ける人。

他に、委託者に代わって受託者に財産の管理・処分の指示をする「指図人」を置くこともあります。

ほとんどの税金の特例は、家族信託でも適用できる

家族信託でも、普通の相続や売買と同じ様に、節税するため税の特例が利用できます。

主な税の特例

1. 居住用不動産の夫婦間贈与
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例。
【参考】国税庁・No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
2. 小規模宅地の特例(特定居住用宅地等)
故人の配偶者や同居していた親族などが、居住用の宅地を相続すると、330m2までは土地の評価額が8割減額(他に事業用宅地の減額もあり)
【参考】国税庁・No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
3. 相続時精算課税
一定の年齢以上の親から子や孫への生前贈与について、相続時の相続税で精算できる制度
【参考】国税庁・相続時精算課税
4. 3,000万円の特例
自宅を売却した場合に、譲渡所得から3,000万円までは非課税になる制度
【参考】国税庁・No.3302 マイホームを売ったときの特例

※詳細は必ず税理士や税務当局へ確認して下さい。

家族信託のメリット

家族信託のメリットはこちら。

家族信託のメリット

  • 認知症になっても家族が財産を管理するため、成年後見制度で必要となる専門家への報酬が不要。
  • 認知症になっても家庭裁判所の許可なしで、家族が自由に財産を管理できる。
  • 死亡時も口座凍結などないので、円滑に資産が運用できる。
  • 信託銀行などの専門機関なしで、自由に家族で信託を設定できる。

家族信託の注意点

ここまで見てきて「家族信託はメリットが多くて良さそう」と感じたかもしれませんが、家族信託にも注意点があります。

家族信託の注意点

  1. 家族信託自体に節税効果はない
  2. 受託者の選定や管理能力不足でモメる恐れがある
  3. 信託の収入と他の収入との損益通算ができなくなる
  4. 登記や専用口座の開設など手続きが必要で、専門家へ依頼すると費用がかかる
  5. 信託している長い期間、受託者・受益者を拘束することになる

注意点1. 節税効果はない

家族信託は相続対策の一つですが、家族信託自体には節税効果はありません。

ただし普通の相続で利用できる特例のほとんどは、家族信託でも利用できます。

詳しくは税理士や税務当局へ確認して下さい。

税理士の心当たりがなければ、こちらのような税理士紹介サービスもあります。
タックスコム

注意点2. 受託者の選定や管理能力不足でモメる恐れがある

家庭裁判所が決める成年後見人と違い、家族信託では受託者を自由に決められます。

そのため、受託者を決める時に家族内でモメる可能性も。

また、受託者はスムーズに選定できても、適切に管理できなければトラブルになることも。

家族信託を利用する際には、財産を適切に管理でき、信頼できる家族がいるかどうかがポイントになると言えるでしょう。

注意点3. 家族信託の収入は他の収入と損益通算ができなくなる

通常、収益物件で赤字が出てしまった場合は、給与収入など他の所得と損益通算することができます。

さらに、損益通算しきれなかった損失については、翌年以降に繰り越すこともできます。

しかし、収益物件を信託財産に入れてしまうと他の収入との損益通算ができなくなり、損失の翌年への繰り越しも不可に。

収益物件がある場合は家族信託によって税金の面で不利益となることもあるため、十分に検討することが必要です。

注意点4. 登記や専用口座開設などが必要、専門家へ依頼すると費用がかかる

「家族による家族のための財産管理」と聞くと「自分たちのニーズに沿って自由に決められる」と思うかもしれません。

しかし、2007年から始まった家族信託は、言わば最先端の相続対策。

簡単そうに思えますが、実は様々な方面の法的知識が必要な難しいものなのです。

そのため、トラブルを避けるためにも、専門家へコンサルティングを依頼した方が良いでしょう。

その際の報酬は、遺言書の作成や成年後見の業務に比べると高めに設定されています。

ハウスくんハウスくん

結局、専門家へ支払う費用がいくらか必要になるんだね

家博士家博士

ただ、サポート期間が長期間にわたることや、多方面にわたる専門的な知識が必要なことなどを考えると、ある程度の費用がかかることは仕方ないんだ

また、信託財産に不動産がある場合は、不動産の名義が委託者から受託者へ変更されます。

そのため、所有権移転登記のための費用(登録免許税)が必要です。

なお、通常の売買や贈与による所有権移転登記では「固定資産税評価額×2%」の登録免許税が必要ですが、信託の場合は「固定資産税評価額×0.4%」になります。

注意点5. 信託している長い期間、受託者・受益者を拘束することになる

家族信託では、2次相続以降の財産承継者まで委託者が決められるようになっています。

これは家族関係が複雑な場合に相続争いを避けられたり、先々の代まで財産を継承したい場合に有効な機能と言えるでしょう。

その一方で、信託契約が続く限り、受託者や受益者を拘束するのも事実。

「長期にわたって資産の処分を制限している」と捉えられてしまい、それが元でトラブルに発展する可能性もあるのです。

「子や孫のために」と思ってやったことが、トラブルの原因になるのは悲しいこと。

そうならないためにも、しっかりとした設計が必要になるのです。

家族信託を利用する方法とは

実際に家族信託を利用したい場合は、まず信託契約を結ぶことになります。

信託契約といっても、法律上はパソコンで作成・印刷した紙(内容を記載したもの)に、委託者と受託者が署名・捺印すればOK。

これだけで契約が成立します。

ハウスくんハウスくん

きちんと紙に書き出して、署名・捺印しておけば良いんだね

家博士家博士

本来は口約束でもOKとされているけれど、それだと後からトラブルになることもあるからね

ただし、不動産の名義を委託者から受託者へ変更するため、登記などは必要。

登記は司法書士に依頼します。

信託契約書の確実性を高めたい場合は、公正証書で作成するか公証役場で宣誓認証する方法もあります。

信託契約書を公正証書にする場合は、1通あたり700円の費用がかかります。

一方の宣誓認証とは、公証人の面前で「この文書(今回は自分たちで作成した信託契約書)に書かれている内容が事実である」と宣誓した上で、信託契約書に署名押印し、公証人が認証するもの。

これによって文書の証拠価値を高めることができます。

なお、家族信託では多方面にわたる法的知識が必要になります。

内容についても法的な抜けや漏れの恐れがあるため、まずは専門家のアドバイスを受けた方が安全です。

ただし、家族信託は比較的新しいものなので、専門家であれば誰でもOKという訳ではありません。

実務経験なども踏まえて、家族信託に詳しい司法書士や弁護士に相談するようにしましょう。

弁護士の心当たりがなければ、例えばコチラのようなサービスもあります。
相続サポート

あなたの家族信託が無事成立して、あなたやご家族の方が笑顔で過ごせることをお祈りしております!