「競売の開始決定通知が届いた! 競売を止められないの?」
競売で家を失う前に、なんとか止めたいですよね。
実は、競売開始決定通知が届いた後でも、競売を止めるチャンスはまだ残っています。
ただし競売を止めるためには、いくつか条件があります。
今回は競売開始後に競売を止める方法とその条件について、分かりやすく解説します。
まだ競売開始決定通知が届く前ならこちらの記事をお読みください。
住宅ローンが払えない場合の解決方法には6つあり、最適な方法を選ぶことが大切。診断チャートで簡単に分かります。
この記事のもくじ
競売を止める方法は2つある
競売を止める方法として、次の2つの方法があります。
- 個人民事再生(以下、個人再生)
- 任意売却
どちらの方法が良いの?
今の状況次第で、どちらが良いかは違ってくるんだ
まずはそれぞれの方法を簡単に見ておきましょう。
1. 『住宅ローン以外のローンが多い』は個人再生
住宅ローン以外のローンが多い場合に利用する
個人再生は、住宅ローン以外のローンが多く、結果として住宅ローンの支払いが厳しい場合に有効な方法。
民事再生法という法律に基づき、裁判所を通じて住宅ローン以外のローン残債を最大で1/10に圧縮。
借金自体は残るため返済自体は続けることになりますが、負担は大きく軽減されます。
【参考】裁判所・個人再生手続
期限は代位弁済から6ヶ月以内
また「住宅ローンに関する特則」を利用することで、競売を止めることもできます。
個人再生で競売を止めたい場合、いつまでに手続きする必要があるの?
競売を止める期限は、保証会社による代位弁済から6ヶ月以内。
これまでに個人再生の申し立てをしないといけないよ
保証会社による代位弁済は、競売開始決定通知書が届く以前に行われています。
競売開始決定通知書が届く前に代位弁済通知が届いているはずなので、その書類を確認しておきましょう。
年間1万人以上が個人再生を申立している
なお、個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類があります。
2022年の個人再生申立件数は全国で9,764件、内訳は小規模個人再生が8,982件(92%)で、給与所得者等再生が782件(8%)。
(司法統計による)
この2つの違いなど詳しいことは、後ほど説明します。
2. 『売却してもローンが払えない』は任意売却
売却価格よりローンが多いオーバーローンに有効
任意売却は、住宅ローンそのものの支払いが厳しく、家を売却してもローン全額を返済できない場合(オーバーローン)に有効な方法。
任意売却に詳しい不動産会社へ依頼し、債権者と調整しながら普通に家を売ります。
家自体は手放すことになりますが、競売と違って普通に売却するので、競売より高く売れる可能性も。
期限は競売の開札前日
任意売却では、債権者(ローン保証会社)が任意売却に同意し、競売申し立てを取り下げれば、競売を止められます。
任意売却の場合はいつ?
開札の前日が期限。
開札後になると落札者の同意が必要になるから、実質不可能になるんだ
競売開始決定通知書が届いてから開札日までにかかる期間は、一般的に7ヶ月半程度です。
それまでに買主を見つける必要があるため、なるべく早く任意売却をスタートする必要があります。
年間約4千人以上が任意売却(推定)
2019年度は15,976件の競売申し立てがあり、そのうち4,645件(29%)が取り下げに。
(司法統計による)
取り下げの多くが任意売却であると考えられます。
それぞれの方法について、詳しく解説します。
1. 個人再生で競売を止めるには
2つの方法のうち、まずは個人再生で競売を止めるための条件や依頼先、費用について詳しく見ていきます。
個人再生に必要な条件
まず個人再生を適用するために、必要な条件は次の2つ。
個人再生に必要な条件
- 住宅ローン以外のローン総額が5千万円以下であること
- 反復・継続的に収入があること
収入はいくらあれば良いの?
具体的な金額があるわけじゃない。
借金は減るけど一部残るから、残りを返済できる収入なら、アルバイトでも良いんだ。
競売を止めるために必要な条件
さらに個人再生で競売を止めるためには、「住宅資金貸付債権(住宅ローン)に関する特則」を利用します。
この特則には、次のメリットがあります。
- 住宅ローンは残したまま他の借金を圧縮できる
- 住宅ローンの返済期間を最長で10年間延長できる
ただしこちらの注意点も。
- 住宅ローンの残債そのものは減らない
- 特則の利用には条件がある。
特則が利用できる条件はこちら。
「住宅資金貸付債権(住宅ローン)に関する特則」の条件
- 債務者本人の居住目的の住宅ローンである
- 銀行または保証会社の抵当権が設定されている
- 住宅ローン以外の借金で住宅に抵当権が設定されていない
- 住宅ローンの返済と、それ以外の借金の返済が継続できる収入がある
- 保証会社による代位弁済から6ヶ月以上経過していない
- 住宅ローン残債が家の評価額より多い(オーバーローン)
それぞれ解説します。
1.債務者本人の居住目的の住宅ローンであること
特則の対象となるのは、マイホームを購入するためのローン、もしくはリフォームローン。
そして、本人が実際に住んでいることが条件です。
投資物件を購入する際の不動産投資ローンや、別荘などを購入した際のローンは対象外となります。
2.銀行または保証会社の抵当権が設定されている
通常、住宅ローンが残っている住宅には、抵当権が設定されています。
この点は特に問題ないでしょう。
3.住宅ローン以外の借金で住宅に抵当権が設定されていない
住宅ローン以外に借金があり、その借金についてマイホームに抵当権が設定されている場合には、特則が利用できません。
これは主に「不動産担保ローン」と呼ばれるローンを利用している場合に注意が必要。
不動産担保ローンは、三井住友トラストL&Fや楽天銀行、住信SBIネット銀行など、多くの金融機関が取り扱っています。
この条件に該当する場合、先に不動産担保ローンを返済してしまえば抵当権が抹消できて、特則の利用が可能に。
しかし、一部の借金だけ完済するのにその他の借金は圧縮と不公平になるため、認められるかどうか難しい部分にもなります。
4.住宅ローンの返済と、それ以外の借金の返済が継続できる収入がある
個人再生では借金がなくなるわけではありません。
また、住宅ローン特則を利用して家を残す代わりに、住宅ローンは全額返済の必要があります。
残っている住宅ローンと、圧縮したその他の借金を返し続けるだけの継続した収入が必要です。
具体的にいくらの収入があれば良いのかは、弁護士などに個別に相談した方が良いでしょう。
5.保証会社による代位弁済から6ヶ月以上経過していない
保証会社による代位弁済から6ヶ月以内であれば、特則の適用によって代位弁済そのものを「無かったこと」にできます。
つまり、住宅ローンを巻き戻せるというわけです。
どうして6ヶ月なのかと疑問に思うかもしれませんが、これは民事再生法で6ヶ月と定められているためです。
6.住宅ローン残債が家の評価額より多い(オーバーローン)
個人再生には「清算価値保障」というルールがあります。
清算価値とは、手持ち資産の全てを現金に換価した場合の額のこと。
その清算価値を保障するわけなので、清算価値よりも多い額を返済金額に設定しなければなりません。
そのため、アンダーローンとなれば差額分が「資産」となり、借金の返済額が高くなってしまうのです。
差額の500万円が資産扱いになり、500万円以上の返済が必要になる
借金を圧縮して返済を楽にするのが個人再生なのに、500万円以上を現金で返済するとなると、個人再生する意味があるのか疑問を感じるところ。
実はこの6つの目の条件に関して言うと、「オーバーローンでなければ特則が利用できない」というものではありません。
しかし、オーバーローンでなければ個人再生のメリットが薄まってしまう事があるため、注意が必要です。
個人再生の依頼先
個人再生は、法的には自分でもできますが、一般的には弁護士か司法書士に依頼します。
というのも、個人再生の手続きは裁判所に申し立てすることから始まりますが、書類作成が難解で専門的な知識が必要なため。
裁判所の公式ページでも次のような記載があります。
個人再生手続は申立人が主体となって手続を進めて行かねばならず、それができなかった場合のデメリットがありますので、法律の専門家でない一般の人が一人で行うことはかなり困難だといえます。
引用元: 裁判所・個人再生手続
もし弁護士や司法書士の心当たりがなければ、専門家を紹介してもらえるサービスもあります。
⇒日本法規情報「債務整理サポート」
個人再生の費用
個人再生にかかる費用は総額で40〜50万円前後。
弁護士と司法書士、どちらに依頼するかによって内訳は変わりますが、総額はあまり変わりません。
- 弁護士の場合:着手金20〜30万円、成功報酬10〜20万円、裁判所へ約3万円
- 司法書士の場合:書類作成20〜30万円、裁判所へ21.5万円
ただでさえお金に困っている状態なので、これだけの費用を支払うのは難しいと感じるかもしれません。
こうした費用については、法テラス(日本司法支援センター)で借りることも可能。
相談は無料で、法テラスの窓口のほか電話やメールでも受け付けています。
また弁護士や司法書士への費用は、多くは分割払いできます。
【参考】法テラス
個人再生には2種類ある
個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類があります。
小規模個人再生
自営業などで継続・反復した収入がある場合は、小規模個人再生を選択。
減額した借金(住宅ローン除く)については、原則として3年(特別な事情があれば5年)で弁済することになります。
借金の総額によって減額幅は次のように変わります。
- 借金総額100万円未満・・・減額なし
- 100万円以上500万円以下・・・100万円に減額
- 500万円超1,500万円以下・・・1/5に減額
- 1,500万円超3,000万円以下・・・300万円に減額
- 3,000万円超5,000万円以下・・・1/10に減額
減額後の金額が「最低弁済額」となります。
例えば、住宅ローン以外に1,000万円の借金がある場合は、200万円に減額されるってことだね
そう。ただし、清算価値保障のルールがあるから、資産がある場合はいずれか大きい方が返済額となるんだ
最低弁済額(200万円)より清算価値(500万円)が大きいので、返済額は500万円になる
例2)住宅ローン以外の借金が1,000万円、清算価値が100万円の場合
清算価値(100万円)より最低弁済額(200万円)が大きいので、返済額は200万円になる
この2つの例を比べると、「オーバーローンかどうか」という条件によって返済額が変わる事がよく分かると思います。
給与所得者等再生
会社員のように給与等に大きな変動がなく定期的な収入が見込める場合は、給与所得者等再生が選択できます。
ただし、会社員でも小規模個人再生を選ぶ人が多いのが実情です。
会社員だからといって、給与所得者等再生しか選べないわけではないんだね
そう。給与所得者等再生は、小規模個人再生の特則といった感じなんだ
給与所得者等再生の場合の返済額は、次のいずれかの最も大きい額となります。
- 最低弁済額
- 清算価値の総額
- 再生計画を提出する前2年間の可処分所得額
1と2は小規模個人再生の場合と同じ。
3が加わる点が給与所得者等再生の特徴です。
この可処分所得額が最も大きくなるケースが多いため、小規模個人再生よりも返済額は高くなりがち。
それでも給与所得者等再生を選ぶ人がいるのは、債権者の同意が不要というメリットがあるためです。
小規模個人再生には、債権者の同意が必要
実は小規模個人再生するには、次の同意が必要です。
- 債権者の過半数の同意
- 債権者の債権額の1/2以上の同意
債権者の過半数というのは分かりやすいけれど、債権額の1/2以上って?
例えば、A社から500万、B社から200万、C社から200万円借りていた場合。
B社とC社から同意を得られても、A社が反対していたらダメってことなんだ
この場合、3社のうち2社からは同意を得ているので、債権者の過半数の同意は得られています。
しかし、債権額が最も多いA社(900万円のうち500万円を借りている)が反対しており、債権額の1/2以上の同意は得られていません。
こうした状況の時に給与所得者等再生が選択されるのです。
2. 任意売却で競売を止めるには
次に、任意売却で競売を止めるための条件や依頼先、費用について詳しく見ていきます。
任意売却の条件
大前提として、任意売却は債務者本人だけの意思ではできません。
最も大切な条件が、債権者の同意を得ていること。
任意売却を選ぶためには、債権者の同意が必ず必要です。
また、税金の滞納で家が差し押さえられていないこともポイント。
まずは滞納分を支払い、役所との交渉が成功すれば任意売却も可能です。
税金は払い終えるまでなくならないもの。
督促も厳しくないから後回しにしがちだけど、優先して支払うようにしよう
その他にも次のような条件があります。
- 連帯保証人が同意している
- 共有名義人全員が同意している
- 十分な時間がある
- そもそも売れる物件である
時間については、競売の開札日の1ヶ月程度前には買主が決まっていないと厳しいと考えおきましょう。
なぜなら、買主が決まった後の手続き関係で1ヶ月程度の時間が必要だから。
開札日前日が期限ですが、この日までに全ての手続きを終えておく必要があるのです。
任意売却の条件について、詳しくはこちらで解説しています。
家を任意売却するために必要な「6つの条件」について、分かりやすく解説します。
任意売却の依頼先
不動産会社か専門業者を自分で探す
任意売却は不動産会社か専門業者へ依頼します。
競売では業者の方から営業が来ますが、向こうからの営業は全て断り、自分で依頼先を探しましょう。
中には悪質な業者もいて、着手金目当ての詐欺業者のようなものもいるんだ
そうした業者の被害に遭わないためにも、自分で探す事が大事なんだね
専門業者ならこちら
参考までに、任意売却の専門業者として、例えばこちらがあります。
⇒住宅ローン滞納問題相談室
任意売却について、詳しくはこちらの別記事で解説しています。
任意売却について、単なる宣伝ではない本当の注意点や、それでも選ぶ場合のメリット、競売との違いなどを分かりやすくまとめました。
不動産会社なら3社以上に話を聴いて信頼できそうな会社を選ぶ
不動産会社であれば、一括査定サイトを利用して3社以上に話を聴き比べると良いでしょう。
大手の運営する一括査定サイトとして主要なものは、
その他、主要な一括査定サイトはこちらでまとめています。
[nlink url=”https://homenever.com/lp/lp03/”]
任意売却の不動産会社については、こちらで詳しく解説しています。
任意売却がスムーズに進むかどうか、カギを握るのが業者選びです。「選んではいけない業者」と「選ぶべき業者」の基準をまとめました。
任意売却の費用
任意売却と聞くと特殊な売り方かと思いがちですが、実際は普通の売却と変わりません。
違う点を挙げるとすれば、債権者との調整が必要になる程度。
そのため、費用としては普通の売却と同じ「売却価格×3%+6万円+消費税」が基本です。
なお、この費用は売却費用から差し引かれることになります。
任意売却について、詳しくはこちらで解説しています。
任意売却について、単なる宣伝ではない本当の注意点や、それでも選ぶ場合のメリット、競売との違いなどを分かりやすくまとめました。
任意売却より競売の方が長く住める
「競売より高く売れるから任意売却の方が良い」と言われることもありますが、家に住める期間で考えると競売の方が長く住めます。
任意売却の場合、家に住める期間は3ヶ月程度。
一方の競売では1年ほど住み続けられ、買受人が現れなければそれ以上に住めることもあります。
引っ越し費用や家賃などを考慮すると、実は競売にもメリットがあることを頭に入れておくと良いでしょう。
競売でも公正証書に署名しなければ、動産までは差押えされにくい
競売で借金が残っても、公正証書に署名さえしなければ、給与や貯金など動産が差し押さえられる恐れも少ないでしょう。
給与や貯金などの動産を差し押さえるには「債務名義」が必要ですが、債務名義に該当する公正証書に署名捺印しなければ、差し押さえられるリスクは低いのです。
給与や貯金などの動産を差し押さえるために必要なもの。
具体的には、公正証書、裁判や調停などがある。
このうち裁判・調停は時間と費用がかかるうえ、裁判中に動産を処分されるリスクもあるため非現実的。
公正証書なら時間も手間もかけずに債務名義になる。
まとめ
ここまで競売を止める2つの方法「個人再生」と「任意売却」について解説しました。
どちらか可能な方法を試してみて下さい。
また、競売が止められなかったとしても、競売では無料で約1年間住めるという利点はあります。
もし競売になったとしても、必要以上に悲観せず、このメリットを上手く活かして新生活の用意を進めて下さい。
あなたの家を守るため、またご家族の新しい生活が幸せにスタートできるために、この記事がお役に立てば幸いです。